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経営者の敗北

初めて起業した約20年前から、経営においてずっと大事にしているポリシーがある。それは「辞める仲間は絶対に引き止めない」ということ。たとえそのメンバーが抜けることが、どれだけ会社にとって痛手であったとしても、一言でも「辞める」と明言された場合には決して引き止めない。もちろん交渉もしない。

引き止めるという行為は、覚悟を持って「辞める」と決断したその意志を侮辱することでもあると思う。また、引き止めようと執着すればする程、最終的にお互い悪感情を持ったままの別れになることもある。それは誰も幸せにはならない。だったら、気持ち良く送り出そうじゃないか。

人との付き合いを短期的に考えてしまうと、どうしても別れ際に執着してしまう。別れが綺麗でさえあれば、長い人生の中で新天地で成長した仲間とまた違う形で一緒に仕事をすることだってある。実際、これまで経営してきた中でたくさんの別れと再会があった。すべての別れは一時的なものなのだ。

もちろん、仲間がいなくなるのは辛いし、寂しいし、悔しいし、何よりも申し訳ないという気持ちが強い。「引き止めない」なんてことを言ってるのは、もしかしたらただ自分が傷つきたく無いだけの強がり、傷つきへの恐れなのかもしれない。

自分たちの目指す世界をつくるため、一人でも多くの仲間と共に、前へ前へと進んでいく。組織の持つダイナミズムもそこにある。だが、その過程で失ってしまうもの、置き去りにしてしまうこと、辛い思いをさせてしまうひとが存在することに、その痛みに、自覚的でありたい。

小さな言葉ひとつ、小さな態度ひとつ、小さな痛みひとつ、そのひとつ一つに、トップが鈍感になってしまった瞬間に、組織は終わってしまう、そう思う。

仲間が辞める、ということは「まだここにいたい」と思わせられなかった、経営者の敗北なのだ。

「この会社にまだいたい、この会社で更に成長したい」と思わせられなかった経営者の敗北であり、どんな経緯であれ、最後には「申し訳ない」という言葉しか出てこない。頑張ってもっとより魅力的な組織にするから、「ここにいてよかった」と思える場所にするから、その時は良ければ戻ってきて欲しいと心から願う。


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家入 一真
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